雨と思い出(ナナイロつーしん14号より)

aoibiwako

2010年11月30日 00:00


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雨と思い出(村上悟)
ナナイロつーしん(第14号)に寄稿

雨が、好きだ。
 中学校最後の体育大会。午前中はなんとか持ちこたえていた重い雲から、大粒の雨が落ち始めたのは、体育館で昼食をとっていたときだった。雨粒が屋根を叩くパラ、パラ、という途切れた音が、徐々に連なり出し、ついに体育館中がザーッという音に包まれた。グラウンドを見やると、巨大な水たまりがみるみる広がっていった。
 結局、午後に予定されていた競技のいくつかは中止となり、この日まで練習を重ねてきた応援合戦は、体育館の中での披露となった。
 そうして最後の体育大会は終わり、僕ら生徒会の役員は、不完全燃焼のやりきれなさと、やり終えた充実感の入り混じった気持ちを抱えながら、後片付けをしていた。
 と、突然、体育委員長の友人が雨の中へ飛び出した。最初はあっけにとられて見ていたが、気付くと僕も、飛び出していた。
 両手を拡げて、天を仰ぐ。雨が、顔を、身体を濡らす。聴覚は、雨音に覆われる。心の中のすべてが洗い流され、空っぽになる。友人はさらに、もはや沼と化したグラウンドへと駆け出し、奇声をあげながらヘッドスライディングする。僕も後に続く。他の役員も続く。グラウンドで転げて笑い合う僕らを、体育館に残った役員も、先生たちも、ほほえましく、眺めていた。雨は、そんな僕らの声をかき消すように、ザーザーと降り続けた…。

 今も、大雨が降ると、そのときのことを思い出す。
 雨は、僕に思い出を連れてくる。

 僕が勤める”碧いびわ湖"では、エコロジカルな住まいづくりの一環として、雨水利用の普及をすすめている。
 先日は、野洲の若いお母さんから相談を受け、雨樋から雨水を取り出す器具を取り付けた。さっそく次の日にはまとまった雨が降ったので、その翌日、電話をして様子をうかがった。すると、
 「思ってたよりたくさん(雨が)溜まるんですね!案外きれいで、洗濯にでもぜんぜん使えそうです。子どもにカッパを着せて外に出したら、ずっと(器具を)開けたり閉めたりして遊んでくれて、うれしかったです。水道だともったいないけれど、これならいくら遊ばせておいてもいいですし。」と、お礼の声がいただけた。
 僕の方こそ、うれしかった。雨の思い出が一つ、そのお家で生まれたことが。そして、その思い出の誕生に僕も役立てた、ということが。


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